(20ページ目)一生懸命に生きた人の話 ~ある「完璧に整理整頓された部屋」~

賃貸管理というのは、本当に奥が深い仕事です。

みなさんの生活の基盤である「住まい」をお預かりする仕事。

そのため、他の職業よりも多く、人の人生の裏側を垣間見ることになります。

不動産業界に入って18年になりますが、いまだに業界内ではヒヨッコ扱いされることもあります。

それでも、数え切れないほどの賃貸管理を経験する中で、時に人の人生の岐路や、その「終わり」に直面してきました。

今回は、私が過去に出会った「名もなき人」の生き様について、少し書いてみようと思います。

一般的に、人生の輝きというと、スポーツ選手や成功者のドラマチックなエピソードにスポットが当たりがちです。

でも、世間では名も無い人たちが人生の岐路で見せた、一瞬の火花のような輝きも、私の胸を打ちました。

当然ながら登場人物は、一部フィクションなどを織り交ぜながら、決して特定されないように書いていますからね。

整理整頓された部屋

長いこと賃貸管理を行っていると、時には亡くなってしまう方が当然出てきます。

病気や事故、そして自死など要因は様々です。

人間には必ず訪れますから、私にとっては当然ではあるのですが、やはり少し思うことはあります。

「少し前に会った時には元気そうだったのに」とか「良い人だったよな」とかですね。

ただ、強烈に覚えているお部屋があるのです。

まずは原因は自死でした。

みなさん、よく勘違いされがちなのですが、賃貸管理のお仕事というと、ご遺体や凄惨な現場などに立ち会ったりすると思われがちなのですが、このご時世ほとんど、そういう現場に入ることはありません。

ご遺体などは警察などが対応してくれますし、仮に酷い現場だった場合も私たちは入ることなく、専門の業者さんに任せることになりますので、実際に管理会社として、そのような特殊な現場に入ることは基本ありません。

かくいう私もご遺体などを見たことは数える程度しかありませんし、長年勤めてくれているスタッフに至っては、そういった光景を見たことはありません。

話を戻して、一報が入り現場へ向かいましたが、その時の現場は少し変わっていました。

まずは異常なほど発見が早かったのです。

というのも、一週間に3度ほど来客がある方で、正にその日だったのです。

そして、私が一番驚いたのが

お部屋がきっちりと整理整頓されていたのです。

警察官も「ここまでキレイな状態は珍しいですね」という位です。

やはり自死を選ばれる方は、バランスを崩しているせいか、お部屋が荒れていることが多く、室内は滅茶苦茶だったりします。

当然といえば当然ですが

しかし、そのお部屋は、しっかりと整理整頓されていました。

宅内や冷蔵庫には生ゴミや食品などもなく、テーブルの領収書なども角を揃えてありました。

恐らく、この日を迎えるにあたって少しずつ減らしていったのでしょう。

本棚の本もキレイに揃えてあり、お金などもしっかりとテーブルに集められていました。

そして、予定通りの来客が来て、不審に思って連絡してくれるであろうことも分かっていたのでしょう。

私はそれを見て、なんとも複雑な感情でした。

この人は何か、自暴自棄になったのでも、衝動的に行ったのでもない

しっかりと、後のことを考えて、少しでも周りに負担がないようにしたんだな

変な表現かもしれませんが、最後の最後まで「ちゃんと」していたんだなと

たしか遺書などは無かったようだと聞きました。

その方がなぜそのような決断をしたのかは、分かりません。

でも、私はなぜか、この人は「一生懸命に生きたんだな」と思いました。

そう思えるようなお部屋でした。

その方の生前のことは全く知りませんが、人生というものに真摯に向き合っていたんだということは、ハッキリと理解できました。

そして、自分だけの責任での決断だったのでしょう。

もちろん今でも自死を肯定はしませんが、不思議な感覚でした。

私はなぜか心の中で「お疲れ様でした」とだけ祈り、お部屋を後にしました。

私の中では暗い話ではないんだけど

そうなんです。

実はこのお話は暗い話や、センセーショナルな部分を書きたい訳ではなかったんです。

でも文才が無いので伝わりづらいですよね。

私は、その方をまったく知りませんが「少なくとも自分は一生懸命に生きたよ」というようなメッセージを受け取った気がしているのです。

もちろん「そんなことはない」と言われたら、そんな気もします。

また、何度も言いますが、だからといって自死を肯定もしません。

私自身も後世に名を遺すようなことはないでしょうし、それに興味もありません。

だけど、この「自分の人生を一生懸命に生きる」という点では、その方とも通じる部分があったんでしょうね。

そして、その部分は誰かに知ってもらいたいと自分は思っています。

だからこそ、名もなきその方が「一生懸命に生きた」ということを誰かに知って欲しいんでしょうか。

その方と私の違いでいえば

私は今も生き続けて、その方は別の方法だったというだけの気がします。

遠いようで、意外と近いような

けれども私はこれからも一生懸命に生き続けてみようと思います。

ともかく、お疲れさまでした。

またいつかお会いできた時には、答え合わせをお願いします。

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