(26ページ目)「地面師たち」を見て ~不動産の所有者を特定する困難さ~

とても面白かった

2024年に公開され、大人気となってネットフリックスのドラマ「地面師たち」

不動産業界にいるせいか、色々な場面で「地面師たち見ました?」とお声がけいただくことが多くありました。

遅ればせながら、見てみたところ「やはり面白い」

さすがですね、ネットフリックスは

そんな地面師たちですが、おかげさまで不動産屋として色んなところで聞かれるのです。

「地面師が現れたら見抜けるの?」「どうすれば騙されないの?」

確かに、恐いですね。

そこで、普段お世話になっている弁護士や司法書士たち、ベテランレベルの不動産業者たちに聞いた結論です。

結論からいけばですが

「ドラマレベルのことをされた場合、見抜くのは難しい」

そうなのです。モデルになった実際の事件のように、超大手不動産会社でも場合によっては騙されるくらいです。

ここで簡単に「いやー、俺なら見抜けるけどねぇ」という不動産業者がいたとしたら、若干想像力が足りないんじゃないでしょうか。

  • 収益がかなり見込めそうで
  • 自分が先着を走っていそうで
  • 内密に近いレベルで来た話で
  • 出来れば早めにと急いでいる

こんな状況で冷静に時間をかけて、見抜くことが簡単に出来るという人はいるのでしょうか?

そして、上記のような事態というのは「詐欺ではない案件で、実際にあり得る」から困ったものなのです。

更に公的書類を完璧に近い形で偽造し、本人確認を仕込んで代役を立てたら?

「地面師たち」が流行って以降、インターネットサイトでは「地面師を防ぐには?」という項目であふれています。

おおよその対策としては

  • 入念な本人確認
  • 複数の仲介業者や専門家を挟む
  • 怪しい業者や代理人に注意
  • 売り急いでいる人には注意

なるほど、確かに基本ではあります。でも不動産業界では、これらは当然に言われていることなのです。

それでも事情によっては騙されてしまうのです。

やっぱり地面師の犯行を完全に防ぐのは困難です。

そういってしまっては話は終わってしまいます。

発想を変えてみましょう。

地面師の犯行を見抜くのは困難ではある。

そうであるなら

そもそも「地面師と遭遇しない」、もしくは「地面師たちがもってくる案件に関わらない」ようにする方法はないのか?と・・・

不動産の所有者を特定するという難しさ

実は不動産取引というのは、非常に不安定なものです。

みなさんや我々が普段信用している「登記簿」も正に不安定な代物なんです。

不動産の言葉に「登記に公信力なし」というものがあります。

超ザックリといえば

「登記というものは、名義は誰の所有か?などは調べられるけど、その内容が本当か嘘かは国も誰も保証してないよ」という感じです。

仮に登記だけを信用して売買しても実態とは違うかもよ。という非常に不安定な代物なんです。

そもそも、土地の所有者というのは厳密にいえばですが、どうやって証明すればいいのでしょうか?

土地の所有者というのはどうやって決まったのでしょう。

恐らくは、太古の昔からあった土地を誰かが勝手に「ここ俺の物」としたのが恐らく最初でしょう。

そこから長い時間を積み重ねて、周りの人達も「あそこはあの人の土地だから」と信じ続けた結果に過ぎないのです。

他にも、そもそもの本人確認というのも、不安定なものです。

「山田花子」さんという人の所有だという物件があったとして、山田花子さんの本人確認というのはどうすればいいのでしょうか?

印鑑証明書?住民票?免許証?

これらは公的書類ではありますが、事件のように偽造されていたら?

DNA検査や血液検査などをすれば確認できるでしょうが、残念ながら登記にDNAの登録などはありません。

他にも国などに登録されている情報というのはあるでしょうが、民間で使わせてくれる情報などはありはしないでしょう。

そして、不動産という正に「動かせない物」であることも本人確認を難しくさせています。

時計や車など、実際に持ち運べる物(動産)などであれば、実際に持っている人が所有者ということを証明しやすいでしょう。

しかし、不動産などは本人がその場所に常にいるとも限りませんし、所有者が普段からいない土地などごまんとあるでしょう。

前置きが少々長くなってきましたが、不動産の所有者を証明することは本来かなり難しいものなのです。

それでも日常のほとんどの取引が円滑に行われているのは

結局、周りの人の信用によるものなのです。

「あの土地は○○さんがおじいさんの代から持ってるから」

「あの土地は私があの人に売ったから」

「小さい頃からあそこであの人は生活してた」

「あそこで商売している人で、あの土地も所有している」

結局、本人であることを証明するのは、自分ではなく周りの人たちからの信用によるものなのです。

実際の積水ハウスの「海喜館(うみきかん)」事件の時もそうでした。

事件発覚後になりすまし役の写真を持って周辺に尋ねたところ

「この人は海喜館の所有者じゃないよ」と近所の方々は申したそうです。

もちろん、このような確認作業を事前にすればよかったというのは当たり前なのですが、こういった当たり前のことをすると

「私を疑っているのか?」ということで立腹する売主というのは実際におり、地面師側もライバルの存在をちらつかせて、そういった作業をさせないようにしていたという事情は考慮した方がいいとは思います。

地面師に遭遇しない、案件に乗らないためには

そう、本人確認の難しさや所有者を本当の意味で見分けることは困難というのはお伝えできたと思います。

それでも、地面師の被害に遭わないようにするためにはというと

「地面師と関わらないようにする」

これしかないんですよね。

具体的にいえば

「信用できない人とは取引しない」

ということぐらいしか現実的にはないんじゃないかと思います。

じゃあ、信用できる人の条件というのは?ということになります。

これは千差万別、信用というのは一日二日で積めるものではありません。

でも逆に信用しづらい人というのは、挙げやすいものです。

不動産業者が警戒するのは、以下のような人たちでしょう。

  • 普段取引がないのに、急に現れた
  • その人の評判などを知る人があまりいない
  • 過去の取引事例で検証できるものがない

まあ当然といえば当然なのですが、要は「素性が分からない人」ということですね。

大体、地面師が仕掛けるのはいわゆる「利益が出そうな条件のいい話」であろうと思います。

そんな「素性が分からない人」がそんな好条件をなぜ自分に持ってくるのか?という点も大事ですね。

美味しい話に飛びついて、その先に待つものは・・・・

ここで突然ですが、みなさんは不動産屋のイメージはどうでしょうか?

胡散臭い、金に汚そう、人を騙しそう などあまりいいイメージはないんじゃないでしょうか。

にも関わらず、不動産屋は「信用第一」とか言いませんか?

「どの口が言ってるんだ」と思われるかもしれませんが、これは不動産業界なりの真実なのです。

上記のように、不動産というのは本来は本当に不安定な物なのです。

その割には価格は高額であり、取引の失敗は計り知れないダメージとなります。

その為、不動産屋というのは「信用第一」ということを本気で言っているのです。

きれいごとでは無くて、取引を終える為には信用なくしては不可能なのです。

不安定かつ高額なものを取り扱っている為に、まともな業者であれば「信用第一」というのは、自分自身を守るためにも大切にしているのです。

よく「不動産業界は内輪ばかりでやっており、透明性がなく、古臭い業界だ」と言われたりしますが、これも上記の理由からです。

簡単に人を信用してはとてつもないダメージや取引先への損害となるのです。

その為、見知っている人、過去の取引がある人などを優先してしまうのは、一定の合理性のあることなのです。

決してキレイごとだけで言っている訳ではないんです。

私は不動産投資などでも相談を受けた時に、まず大原則として申し上げるのが

「不動産では、大きな成功を掴むことより、大きな失敗をしないこと」

だと思っています。

小さな失敗を避けることは不可能ですし、学びや経験になりますので、これは仕方ないことです。

しかし、高額でもある不動産で地面師などによる大きな失敗は取り返すことが、極めて難しいものです。場合によっては回復不可能なダメージともなるでしょう。

不動産では、こういった「一発アウト」という経験をしなければ、他の失敗であれば何とか対応していけることがほとんどです。

地面師に限らず、不動産業界では怪しいブローカーなど、色んな人達がいます。

そして怪しい人たちが持ち掛けてくる案件というのは魅力的です。

甘い囁きに聞こえるでしょうし、事実として詐欺などではない魅力的な話がごく稀にあります。

しかし、それでも気を付けて欲しいものです。

私は昔どこかで聞いたこの言葉を常に胸に置いてあります。今回はこの言葉で締めましょう。

「悪魔というのは、恐がらせたり、脅したりはしない。悪魔は皆、優しいのだ」

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