騒音問題は本当に難しい ~管理会社は「どこまで」やればいいのか~

騒音問題は本当に難しい

現場に立つスタッフなら、誰もが一度は通った「終わらない騒音苦情」

騒音の苦情を受け、原因と思われる方へ連絡します。

快く対応いただいたにも関わらず収まらない苦情。

出来る対応はしてみたものの、一向に収まらずに、残す解決方法は現実的ではない建て替えレベルの防音施工。

どんな対応をしても収まらないし、原因の特定も出来ないままに苦情が続く。

何とか苦情に苦しんでいる入居者さんに寄り添いたい。

だけど、手がない・・・・

結論から言いましょう。

管理会社にできることは限られています。

そして、それでいいのです。

むしろ、そこを勘違いすると対応を誤ります。

今回は「私たちがどこまでやるべきか」というラインをある程度明確にし、その先にある「入居者同士の訴訟」という解決方法についても、スタッフとして知っておいてほしいという話です。

実はこの問題いつまでも「頑張ります」で対応を続けると、最終的には全員が不幸になる可能性を含んでいるのです。

そもそも管理会社に「解決する権限」はない

まず前提として押さえておきたいのは、私たちは「建物の管理者」であって「人の管理者」ではないということです。

どんな入居者であっても、強制的に退去させる権限や、部屋に立ち入って調査する権限も、私たちにはありません。

それは警察でも弁護士でもない一企業には当然の話です。

それほどに今の借地借家法というのは強いものです。

入居者保護の前では管理会社の権限など有って無いに等しいものです。

「じゃあ、管理会社は何もしてくれないのか」と言われれば、それは違います。

ここからが本題です。私たちが「するべきこと」と「できないこと」の線引きを、はっきりさせておきましょう。

スタッフが最大限やるべきこと

まず、私たちがやるべき対応はこれです。

  • 苦情を受けた際の丁寧な聞き取り(いつ、どんな音が、どのくらいの頻度で)
  • 該当住戸・全戸への書面での注意喚起
  • 電話や対面での状況確認と説明
  • 対応の経緯・日時をすべて記録に残す

体感ですが、現実の騒音問題は、この対応だけで9割以上収まります。

だからこそ、面倒でも一つひとつ丁寧にこなす。

ここに手を抜くと、後々こじれた時に「管理会社はちゃんと対応したのか」という話になりかねません。

逆にきちんとやっていれば、それだけで十分に胸を張れる仕事をしたと言えます。

ただし、ここで一つ注意しておきたいことがあります。

「どこまでやったら十分か」は、苦情の深刻さによって変わるということです。

軽い苦情であれば書面注意で一旦様子を見てもいいでしょう。

しかし、頻度が高く、被害を受けている方の生活や心身に明らかな影響が出ているような深刻なケースでは、書面注意だけで止めてしまうと「対応を尽くした」とは言えません。

聞き取り→書面注意→個別の警告→連帯保証人への連絡、というように、状況に応じて段階を一つずつ上げていく。

この「積み上げ」があって初めて、私たちは胸を張って「やれることはやった」と言えるのです。

「受忍限度」を知っておくと、対応の質が変わる

ここで知っておいてほしいのが「受忍限度」という考え方です。裁判所は、騒音が違法かどうかを判断する際、単純な音量の大小だけでなく

  • 音の大きさと種類
  • 頻度・時間帯・継続時間
  • 建物の構造や防音性能
  • 苦情を受けた側の対応の誠実さ

こういった要素を総合的に見ています。

実際にあった裁判例では、上階の子どもの足音が問題になったケースで、音量そのものよりも「静かにしてほしいという申し入れに対し、乱暴に突っぱねた」という対応の不誠実さが重く見られ、損害賠償が認められています。

これを知っていると、私たちの聞き取りや記録の意味が変わってきます。

「音の種類・頻度・時間帯」を具体的に記録しておくこと自体が、後々どちらの入居者にとっても重要な材料になるからです。

感覚だけで「うるさい」「うるさくない」と判断せず、こうした要素を意識して聞き取る。それだけで対応の質が上がります。

なお、実際に賠償が認められた事例でも、慰謝料の相場感としては数十万円程度にとどまることが多く、測定費用や弁護士費用を含めても、被害を受けた側にとって「割に合う」金額とは言い難いのが実情です。

この現実も、頭に入れておく必要があります。

それでも収まらない時――ここが私たちのラインです

聞き取り、注意喚起、警告書・・・やるべきことを尽くしても収まらない。

そんなケースが、残念ながら存在します。

ここで大事なのは、「これ以上は私たちの仕事ではない」とラインを引くことも、スタッフの仕事のうちだという意識です。

管理会社には、どちらが正しいかを判断する権限も、どちらかを一方的に退去させる権限もありません。

ここから先まで管理会社が抱え込もうとすると、かえって当事者双方から「なぜ管理会社が勝手に決めるんだ」という反発を招きかねません。

その先にある選択肢が、入居者同士による訴訟です。民事調停や少額訴訟、通常の訴訟といった法的手続きを経て、当事者同士が白黒つける。

これは管理会社が「逃げる」ということではなく、そもそも私たちの役割と司法の役割が別のものだ、というだけのことです。

被害を受けている入居者に対して、「これ以上は当社では判断できません。もし解決を望まれるのであれば、法的な手続きという方法もあります」と、はっきり伝えられるかどうか。

これもスタッフとして持っておくべき知識です。

あいまいに「頑張ります」を繰り返すより、よほど誠実な対応だと私は思います。

そして、それまで私たちが積み上げてきた聞き取りや記録は、その入居者が次のステップに進む際の貴重な材料にもなります。

ただし、ここでも一つだけ気をつけたいことがあります。

私たちが案内していいのは「そういう制度があります」というところまでです。

「勝てますよ」「これくらいの賠償が取れるはずです」といった見通しや、訴状の書き方まで踏み込んでしまうと、それはもう管理会社の仕事の範囲を超えてしまいます。

弁護士や法テラス、簡易裁判所の相談窓口といった入り口を示すだけにとどめておく。

それが私たちの誠実さの、もう一つの形だと思っています。

まとめ

それでも、騒音の苦しみというのは、経験した人にしか分からないくらい想像以上のものです。

眠れない夜が続く辛さ、原因が分からないまま苦情を溜め込む苦しさ、これは決して大げさな話ではありません。

だからこそ、私たち管理会社は誠実で真摯な対応をすべきなのです。

それは、権限もないのにあるかのように振る舞ったり、やっているフリだけで済ませたりすることではありません。

出来ることを丁寧にやり切り、それでも解決しないのであれば、適切な解決までのルートをきちんと指し示してあげること。

それこそが、私たちに出来る、そして私たちがやるべき、プロの仕事だと私は思いますよ。

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