
最高裁判決と本当の問題
賃貸不動産業界で注目されていた裁判の最高裁判決が出ました。
今回の裁判では、滞納をし続ける賃借人に対して「家賃保証会社」が契約を解除したり、明け渡したとみなす権限まであるのか?という争点でした。
そして、最高裁の判決では改めて入居者保護が強い権利であることも浮き彫りになりました。
しかし、これを発信するメディアの論調は隠れた本当の問題がいまいち議論されていません。
今回はこの最高裁判決に隠れた問題について当事者を良く知る管理会社目線でお話ししていきます。
ちなみに当社はフォーシーズは利用していません。あくまで業界の中の話しを私個人の見解としてお話ししてみます。
まずは今回の争点と概要を
家賃滞納に伴う「追い出し」条項は違法 最高裁が逆転判決(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース
借り手が家賃を2カ月滞納し、連絡がつかないなどの事情があれば、家賃保証会社が「部屋は明け渡された」と扱える――。こうした契約が消費者契約法に違反するかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第一小法廷(堺徹裁判長)は12日、「違法」と認め、契約条項の使用差し止めを命じる判決を言い渡した。差し止めを求めた原告のNPO法人の逆転勝訴が確定した。 …

意外とビックリした世論

今回の判決やニュースでは「ひどい保証会社」と弱者保護を掲げる正義の団体という構図になりやすいものでした。
判決は正直「こうなるだろうな」と思っていたので、特に驚きはありません。
しかし、意外だったのは世論の方でした。
私はこのニュースを表面だけ捉えると「家賃保証会社にそんな権限を持たせるな」「保証会社加入必須の世の中はおかしい」「家賃保証会社は社会の闇だ」的な論調になると思っていました。
しかし、大方の世論は逆でした。
yahooコメントなどから多かった意見を要約すると
- 業者の借主の選別が厳しくなるので、逆に家が借りられなくなる人が増えるか、保険料が上がって家賃が高くなる。
- 家賃を支払わなくても追い出せないとしたら『保証人になってくれる人がいない人』『仕事が安定しない人』『高齢者』『障碍者』などの弱者には誰も部屋を貸さなくなる。
- 『家賃を3カ月以上滞納すれば、借り手に知らせず賃貸借契約を解除できる』、この契約条項は少し強引かな。通知なし解除はないと思う。
- 駐車場の無断駐車といい、家賃未納者の追い出し不可といい日本の法律はまともな人間側が損をする法律が多すぎる。意味が分からない。
- 借りている以上は家賃は払うのが当然では? これによりますます貸し渋りが起きるのではないか?NPO側は勝ち誇っているだろうが結果としてとんでもない負けになるよ
意外や意外!今回の判決を受けての反応は家賃保証会社に同情したり、現行の法制度の問題なども孕んでいるコメントが多く見られました。
概ねその通りだと思います。
ちなみに現在の状態で「家賃保証会社がこの世からなくなったら?」という部分での事実だけをあげましょう
仮に家賃保証会社がなくなったら?

- 全体の家賃相場は上がる
- 入居審査は厳しくなる
- 敷金ではなく、礼金などの制度も復活するかも
- 連帯保証人の役割も増える
家賃保証会社が無いその昔、家賃の決め方は「家賃をとりっぱぐれる前提の家賃設定」でした。昔は滞納が発生する確率を10部屋に1部屋とか全体の5%とか色々なデータを基にしていました。
ちなみに2020年度の日管協という団体のデータでは滞納率では全国平均で5.0%とのことで約20部屋に1部屋は滞納している計算となります。
そして、滞納はあるという前提での賃貸経営を求められますので、賃料はその分上がることになります。
リスクは全体のコストで計算しておくということですね、商売上極めて当たり前です。自動車メーカーもリコールの可能性、ハウスメーカーも瑕疵担保、スーパーなどでは万引き被害など業種ごとにあるリスクを全体の価格に反映していますよね。
賃貸経営となると全体の家賃へリスクの転嫁は「仕方ない」のです。
しかし、現在では家賃保証会社が一般的になったおかげで大家側はリスクが軽減されたおかげで、家賃設定に滞納リスクを見込まずに済みますので、家賃額は下げて競争することが出来る状況なのです。
入居審査も同様の考え方です。滞納リスクの高い職業や収入が安定しない人、そもそも年収が低い人などはリスクの観点から断らざるを得ないのではないでしょうか。
しかし、そんな方でも「万一滞納しても家賃保証会社が保証してくれるなら」といって受け入れてもらえる状況でもあります。
そして、意外と恩恵を受けているのは連帯保証人の方も保証会社の恩恵を受けています。※保証会社と連帯保証人併用の場合
連帯保証人といえども、賃貸借契約を解約することは本来認められていません。例えば入居者が家賃を払わない場合、連帯保証人が代わりに支払わなければなりませんが、入居者と連絡が取れなくなった場合、連帯保証人は毎月の家賃を極度額まで支払い続けなければなりません。
今回のように保証会社が入っていると最長でも約6ヶ月程度で訴訟などになります。
そうすると、連帯保証人は上限よりは少ない損害で済むのです。これは意外と知られていませんけどね。
フォーシーズは収入や属性の良くない方の味方でもあった

今回の件に戻りましょう。
先ほど申し上げた通り、今回の構図としては「あくどい家賃保証会社が弱者をいじめる」というものに写っていました。
しかし、私は業界の中の者として言いましょう
「フォーシーズは社会的弱者の味方でもあった」(手法に問題はあったかもしれないが)
というのは、今回訴訟を起こされたフォーシーズという会社は業界の中では「審査が通過しやすい」という点で有名であった保証会社です。
通常、家賃保証会社というのはリスクを計算しています。生命保険などの保険会社同様にリスクを計算しています。
職業、年収、勤続年数、会社の規模、連帯保証人の属性など様々な項目でリスクを計っています。
入居審査では人柄というのは見られません。実際にお会いしたとしても、本当の人柄など1時間やそこらで見えるハズもないからです。
「公務員でも滞納する人はいる」「アルバイトや年収が低くても滞納しない人がほとんどだ」と言われるかもしれません。
そんなことは皆知っています。人により違うなど当たり前です。
それでも、データを取っていくとやはり総数は収束していくのです。
年収が低い人、職業で安定しづらい人などはデータ上滞納リスクが高く、公務員や大手企業勤務は滞納リスクは低いのです。
そういう点では家賃を立替えなければいけない保証会社なら本来、リスクの少ない人だけを相手にしたらいいと思いませんか?
そんな中でフォーシーズという会社は審査の通過率を売りにしていました。一説には通過率98%との説もあります。
ちなみにクレジットカードを決済手段として用いるタイプの保証会社では通過率は90%前後と10人に1人位は落ちる計算となります。フォーシーズなら100人で2人位しか審査に落ちませんね。
こういう風には見えませんか
「フォーシーズはリスクも承知で、他の保証会社なら落ちる人の保証を受けていた」と
フォーシーズでなければ審査を通過できない人たちの最後の砦だったのかも?とは思えませんか。
確かにリスクへの対策として「追い出し条項」を作っていたという部分は不適切だったかもしれません。
もちろん、他の保証会社が取らない市場を取りに行った上での自己責任という見方もありますがね。
しかし、それだけの審査基準となるとフォーシーズが毎月立替えている金額はかなりのものであったことは予想できます。
正式な法的手続きをしようと思うと、費用や時間は膨大な量です。
正式な法的手続きだと滞納3か月経過してから訴訟となり、判決から明渡しまで6ヶ月~1年の時間も要します。
勝訴したとて、滞納家賃や原状回復費用は泣き寝入りがほとんどの実態もあります。
保証料も安く、審査も通過しやすいように。これを両立するとなると、正式な裁判や強制執行という費用まで負担することは難しかったのでしょう。
手法に問題はあったかもしれませんが、審査的な社会的弱者の味方であったという側面は知ってあげてもいいかもしれません。
当社は冒頭にも申し上げましたが、フォーシーズとの契約はありません。当社が提携している保証会社は滞納が続いた場合、合法的な裁判を通しての賃貸借契約の解除をしている会社ではあります。
健全な未来とは? 社会的弱者を救う「逆の発想」

まず大前提としてですが
家賃保証会社は入居者保護が強くなったことで社会に必要になった
ここを抑えておきましょう。
大昔、入居者の権利は低いものでした、悪徳不動産や悪徳大家と呼ばれる人達が多く出現したことで社会問題となりました。
その後、入居者や消費者保護の観点から借り手の権利を強く保護する風潮となりました。
これは私も歓迎です、お金を払う立場の入居者には一定の権利が認められないといけません。住むところという命に関わる場所である以上、一定他の商売よりも入居者という存在の権利は簡単に奪うべきではありません。社会インフラの一部と位置づけるのも構いません。むしろそうであるべきです。異論はありません。しかし
一度入居すると滞納があっても簡単に追い出せないから家賃保証会社が出来たのです。
一部の滞納者の権利が強すぎて全体の95%以上の滞納しない入居者も家賃保証会社に加入することになったのです。
今後、民間の事業としての不動産賃貸を社会インフラの一部という位置づけにするのであれば、
来るもの拒ませず、権利は相応に、滞納しない普通の入居者へしわ寄せがない
こうあるべきです。具体的な解決策として提案するなら
滞納による裁判手続きを「もっと手軽に、もっと早く、もっと安く」
これで全て解決します。なぜなら
- 国の対応では時間・手間・費用が掛かり過ぎるから自力救済をしてしまうが、簡便なら国の手続きを使う
- 社会的弱者を受け入れるリスクも無くなる、なぜなら裁判上の解決が手軽だから
- 入居審査もリスクが低いなら厳しくしなくていい=審査の緩い社会
- 費用も安価なら他の入居者にリスクを負担させずに済む
- 残念ながら国の裁判で追い出された方も、審査が緩い社会なら「次のお部屋」も探せる
国の制度としての裁判を早い、安い、簡単にすれば全ての問題が解決するのです。
誤解を恐れずに言えば「受け入れやすく、追い出しやすい」につなげることが却って社会的弱者の方の為にもなります。
国の制度としての裁判を簡便にすることで解決できます。
「追い出しやすくすることは反対」
分かります、しかしそうやって一部の少数の入居者保護ばかり優先すると、家賃や保証料などのコストを「95%以上の普通の入居者」が負担せざるを得ません。
こう考えてみませんか?
国が裁判で必要と認めたらという正当な「追い出し」、そして追い出しやすい環境があれば「どんな方でも受け入れられる環境になる」ということです。リスクが最低限になるのですから
家賃保証会社が今回の判決が理由で審査を厳しくしたり、保証料を高くしたり、そんなことで社会的弱者の問題解決にはなりません。
不思議なものです、社会的弱者を救おうとして弱者を苦しめてしまう。
私は不動産会社として「社会的弱者と住まい」問題にはかなり本気です。支援のお手伝いも社を挙げて取り組んでいます。
心の底から社会的弱者がお部屋を借りられないような社会はダメだと思っています。
しかし、この問題は民間だけで解決しろ!は無理です。法律を作ったのは国ですから。
でも逆の発想で考えてみましょう。「追い出しやすい環境は受け入れてもらえる環境」につながるのです。
道を間違えてしまった方でも何度でも復帰できる社会が良く、排除する社会はダメです。
その為には審査が厳しい社会は絶対に避けた方がいいのです。
そしてその負担を95%以上の「普通の入居者」へ転嫁することは「正直者がバカを見る」というものであってはならないのです。
一見暴論に見えるかもしれませんが、本当に解決する問題はこちらの方だと思っています。
今回の報道では一定数この問題を世論も本質的に捉えているような気がしました。
それでも今度は社会的弱者VS「普通の人」のような構図になるのでは?と思ってきました。「滞納する者の為になぜ普通の人が割を食うんだ」という論調ですね。
でも、社会的弱者を救うことが「普通の人の利益を害しないなら?」、みんな救いたいはずです。
この部分を本音と建前も含めて議論するなら有効な手段ではないでしょうか






