
賃貸管理に従事していると人間の喜怒哀楽に触れる機会が多くあります。
人が大部分の時間を過ごす「家」
そのため、我々は時として喜ばしいこと、怒り、悲しみ、楽しみを他の職業の方よりも近い距離で感じることがあります。
時にそれは最上の喜びになり、「賃貸管理って素敵な仕事だな」と思えることもあれば、「知りたくなかったな」ということも正直あります。
今回はその中で私が経験したことの中で特に印象深い件をお話していこうと思います。
※このお話しはだいぶ前のお話であり、当時の会社に勤めていた頃のお話です。最近の法令や慣習などに当てはまらない表現や行動なども含まれます
始まりは家賃の滞納でした。
とあるマンションにお住まいのここではAさん(男性)とします。
Aさんの住んでいる物件は当時勤めていた会社の管理物件で繁華街まで近いマンションでした。
1ルームで広さは4.5畳程度ですが、近隣の物件と比較しても賃料が安く、他の入居者も単身ばかりで、多くは学生さんや新社会人の方が多く住むマンションでした。
このAさんが少しずつ滞納がかさんで来てしまい、ある日とうとう連絡が途絶えてしまいました。
契約書で見るとAさんの経歴は以下のようでした。
・年齢22歳(当時)
・男性
・仕事は派遣社員で某工場勤務
・連帯保証人はお父さんで一般の会社員
・残っている身分証の写真からは茶髪でいわゆるロン毛のような状態
私は途中からこの件を引き継いだのですが、現地に行っても会えず、携帯は「お客様のご都合により~」で繋がることはありませんでした。
やむなく勤務先へ連絡すると「1か月ほど前に退職している」とのこと
お部屋へ訪ねてみると、ガスが止められており、電気水道はつながっているようでした。インターホンは鳴るが返答はありませんでした。
こうなってしまっては連帯保証人であるAさんのお父さんに頼る他なく、お父さんへ連絡をしました。
数コールですぐにつながりました
「もしもしAさんのお父様でらっしゃいますか」
その言葉を言い終わるか否かの前にお父さんから
「うちの息子は今どこでなにをしているのですか?」と逆に質問をされました
珍しいケースです。
通常はたいてい「はい?不動産屋さん?何の用ですか?」といった反応になります
これは何か事情があるのだろうと思い詳しくお話しを聞いてみることにしました。すると
・一月前からお父さんの自宅にたくさんの督促状などが届くようになった
・肝心の息子に連絡するがつながらない
・今どこで何をしているか分からない
とのことでした。
そして一番衝撃的だったのが、
「そもそもそのマンションに住んでいることも知らないし、連帯保証人になったつもりもない」
とのことでした。要は本人が連帯保証人としてお父さんを書いたが、以前の管理会社が入居審査などを行わずにスルーしてしまった。
なんてことだ・・・なんてことだ・・・
確かに賃貸借契約書の字も本人と筆跡が酷似しているし、肝心の印鑑証明書もありませんでした。
どんな審査をしてどうやってくぐり抜けてしまったのかは今となっては知りようもありません。
とはいえ、お父さんからすれば息子の手掛かりを知る管理会社の私の協力が必要、私も最早手掛かりはお父さんのみという状況でしたので、一旦利害が一致しました。
私は家賃が未納である旨を伝えましたが、お父さんは「私も十分な蓄えがなく、余裕がない」とのことでした。また、連帯保証人を承認している訳でもなかったため、一旦お父さんへのご請求は待つことにしました。
しかしこのままではお互い前に進まないため、お父さんに住所を教えて、仕事終わりのお父さんとAさんのマンションで落ち合うことにしました。
季節は確か11月頃でした、非常に寒い日でした。約束の7時になると鉄筋コンクリートのマンションは冷えきり、まるで建物自体が氷かのように寒さを私に伝えてきました。
私は緊張していました。それは今まで集まった情報を組み合わせると最悪の事態も予想されたからです。
そうしている内にお父さんが来ました。
お父さんは当時でたしか50歳程でしたが、私の目にはもっと歳が上に、60半ばに見られるようでした。
身長160cmくらいでかなり痩せていて、初対面でも心労により顔に生気がない様子が見て取れました。
スーツはお世辞にもキレイとはいえず、ヨレヨレで元は紺だったのでしょうが、擦れて変色までしていました。
頭髪も整髪料などつけず、少し薄くなった髪も歳を上に見させていたのかもしれません。
長いベルトの肩掛けカバンを持っており、走ってきたのか、緊張からか息が上がっていました。
簡単に挨拶を済ませると私は本題を切り出しました。
「今日立ち合いのもとお部屋に入りませんか?」
連絡が取れず、会社も辞め、ポストと実家にたくさんの督促状、周りの住民もしばらく見ていない。
最悪の事態も予想される中で選択肢はもうこれ以外ありませんでした。
まずはドアポストを開けることから始めます。
私は嫌な能力なのですが、中からする匂いで「死臭」というものがある程度分かります。
人が亡くなってすぐでは分かりませんがある程度たつと大体共通した匂いになります。今までの経験上も「このニオイ」というものがあります。
この「ニオイ」ですが何とも形容しがたいですが、聞かれて答えるなら「味噌と醤油を混ぜて焦がして腐らせた」という感じでしょうか。
ドアポストを開けて少し匂いを嗅いでみます。この時点で心臓はバクバクです。
中からは異臭はしますが、少なくともそれではありませんでした。
いよいよ合鍵で開錠します。
扉を開けてまずは声を掛けますが返答はありません。気が気でないのか、お父さんは私を押しのけ、明かりをつけて中へ入っていきました。
中はひどい有様でした。
そこかしこに弁当のゴミやペットボトル、異臭の正体はこれだったのでしょう。
炊飯器にはカビの生えたご飯がそのまま、雑誌や服なども雑多に置いてありました。
私は一通り浴室やベランダなどを確認しますが、本人はいません。
私はどうやら最悪の事態は回避できた、恐らく夜逃げだろうかと思って胸をなでおろしているとお父さんが部屋の真ん中で俯いています。
私に背を向けて一点を見つめていました。
何を見ているのかなと後ろから覗き込んだら床の上にあるマンガ雑誌にペンで
「ごめんなさい」とだけ書いてある文字でした。
誰に向けての何の「ごめんなさい」なのかは分かりません。ただ「ごめんなさい」としか書いてありません。
しかも雑誌にペンでメモ書きのように書いてあります。手紙などでもありません。
それを見つめているお父さんは背中越しでも肩を震わせて泣いているのが分かりました。
私は何とも声を掛けることもできずに、しばらく部屋のあちこちを眺めていると唐突にお父さんが話し始めました。
「この子は小さく産まれましてね、小さいころからなるべく強くなるようにと思って、、」
そこまで話すと続きは話せなくなりました、ただ肩を震わせていました。
しばらくして少し落ち着いたお父さんとはそこで別れました。
翌日、こちらから催促していないにも関わらずお父さんから滞納分の家賃を支払うとの連絡がきました。
その後も毎月の家賃をお父さん名義で振り込んできました。
その後しばらくして、私がその会社を退職することになり、Aさん親子の結末を知ることはできませんでした。
ブログを書くことになって今までの経験を思い出そうとしていたら久しぶりにこの件を思い出しました。
あの時お父さんには何も声を掛けられませんでした。
あの日は自宅に帰り、自分の息子をギューっと抱きしめたことを覚えています。
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これなーんだ?床にある不思議な物の正体
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配管凍結を防ぐ方法と凍結した時の対処
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