
深夜に聞こえてくるお経
これは私が東京で管理会社に勤めていた時のことです。
ある入居者からお電話がありました。
「このところ深夜3時ごろから部屋でお経が聞こえてくるのですが・・・」
電話をくれた方は「寝てる時間だし、気味も悪いし、なんとかなりませんか?」とのこと
深夜3時といえば「草木も眠る」時間です。
確かにそんな時間にお経が聞こえてきたなら気味も悪いですし、恐怖を感じるでしょう。
この辺りで私もイヤな予感でございました。
入居者さんは幽霊などを心配しておりましたが、私は当然信じておりませんので、音の発生源を探すことにしました。
ちなみに幽霊だった場合に管理会社が出来ることはあるのでしょうか?
幽霊の正体見たり

私はなんとなく心当たりがありました。
なぜなら、その入居者さんの隣には「ひょっとしたら」と思う方がいたのです。
とりたてて目立った迷惑行為などをする等ではないのですが、玄関側の窓という窓を内側からカーテンなどを張り付けている奇妙な方がいたのです。
ここではAさんとしましょう、私はAさんに電話することにしました。
すると
「そうですよ、私が毎朝唱えていますよ」
あっさり見つかりました。
しかし、本番はここからだったのです。
「Aさん、とはいえ朝と呼ぶには早すぎる時間なので音量を控えるようにお願いできませんか?」
とやんわり注意をしました。
すると
「私は世界平和の為に祈っているんだから仕方ないじゃない」
と反論してきました。
しかも、その時間に部屋の窓を開けて唱えているそうです。そりゃ周辺にも聞こえるでしょうね。
私はなおも冷静に「それでは近隣から苦情が来てしまうので、ちょっと音量を控えたり、窓は閉めて行いましょう」というニュアンスで勤めて冷静に話をしました。
しかし、Aさんは
「私がお経を唱えることの何が悪い」とまるで宗教を否定されたかのように怒ってしまいました。

本題はそこじゃないんです・・・
私はその後熱弁しました。
「宗教の話はしていません、信教の自由があるように、世界平和の為に祈るのは多いに結構なんです」
「単に音量と時間と窓の問題です」
「午前3時は皆さん大体寝ているので朝ではなく深夜です」
と丁寧に話をしていきました。
しかし、Aさんは怒りは静まったものの「でもでも」「だって」で中々納得していただけません。
最終的に私は
「Aさん、世界平和の為にというなら、まずはお隣さんから幸せにしましょうよ」
と話しました。
するとAさんは「そうですね、これからは時間と音量に気を付けます、すみません」とやっと聞いていただけました。
本当に世界平和の為に祈っている人ですから善意であるのは事実ですから、この言葉で落ち着いていただけました。
私自身は無宗派で特定の信心もありませんが、信教の自由は出来る限り尊重したいと思っております。
しかし、それも「公共の福祉」に反しないものであればです。
その後Aさんにまつわる苦情は落ち着き、深夜のお経というのはなくなりました。
問題点がブレないように

今回はこのようにして解決へ至りましたが、こういった問題の時に入居者さんと「意見の相違」「感覚の違い」というのは往々にして出てきます。
しかし、その時も管理会社としては「問題点はここである」という点だけブレないように心がけています。
今回でいうと「音量・時間・窓」「他の入居者の迷惑」ですね。
Aさんとの話しでは「宗教」「個人の時間感覚」「信教の自由」など別の論点が出てきましたが、これらは問題の本質ではありません。
こういった問題の本質でない部分や個人の価値観によって賛否や正誤が分かれるような部分に捕まってはいけません。
なぜなら、賛否や正誤が分かれるような部分は他人では変えることが出来ない部分だからです。
今回でいえばAさんに宗教それ自体を止めてもらうようなことを出来ませんし、してはいけない領域です。
あくまでトラブルを解決する人間としては「問題点」のみにフォーカスして話をしなければなりません。
個人の価値観の部分で言い争いをしたい訳ではありませんからね。
あくまで私たちが達成したいのは「各入居者の平穏な生活」ですから、枝葉の問題に首を突っ込むのは得策ではありません。
ですから苦情処理をする時にはこの「何が問題点か?」をしっかりと捕まえて、他の枝葉部分の話で熱くなったりしてはいけません。
ちなみにAさんは良好な入居者として長らく住んでいただけましたよ。

